ワンポイントアドバイス

お子さんの病気について

はじめに

小学校入学前の小さなお子さんによく見られる代表的な耳鼻科の病気に中耳炎副鼻腔炎があります。 案外まず小児科を受診したり小児科の病気で治療中に併発することも多いようですが、正しい知識を身につけ早期に治療することが大切です。また外科的治療(鼓膜切開など)や治ったかどうかの正しい判断は耳鼻科でしかできませんのでご注意下さい。

私が耳鼻科医になった1980年代にはお子さんの急性中耳炎が治りにくいなどと考えたことはありませんでした。クリニック開院前には大学病院の他にも様々な地方病院で診療を重ねましたが、やはり同様の印象でした。その後時が経って開業前の2000年頃から治りにくい小児の中耳炎が話題となり始めましたが、当時勤めていた札幌市内の総合病院でもそれ程実感は無かった様に思います。ところが2002年にクリニックを開院し最前線で色々なお子さんを診察して来ましたが、当初から保育園児や幼稚園児が多数を占めていたこともあり耐性菌の多さ、中耳炎が重症化、遷延化するお子さんの余りの多さに愕然としました。そうした中で日々悪戦苦闘しながら患者さん自身から色々な事を学ばせてもらったというのが実感です。

近年、以前ほどは重症化、遷延化する中耳炎のお子さんが減ってきた印象です。抗菌薬内服に全く反応せずに発熱や耳漏を繰返し遂には入院して抗菌薬を点滴する様なお子さんは確実に減って来ました。その理由として適切な抗菌薬の使用(無駄に不要な抗菌薬を使用しない)や近年定期接種化された肺炎球菌ワクチンの効果が大きいのではと考えています。

中耳炎について

一般的に発熱や痛みを伴う急性(化膿性)中耳炎と目立った症状を伴わずになんとなく耳が遠いことで気づかれる滲出性中耳炎に大別されます。(急性中耳炎は幼小児期に最も頻回にかかる感染症で、生後3歳までに約70%の小児が少なくとも1回の急性中耳炎にかかると言われています。また生後2歳までに反復する中耳炎の回数が後の反復性のパターンの形成に関与すると考えられています。)

しかしはっきりとクリアに分けることが難しい場合や中間の状態(semi-hot ear)もあり相互に移行します。いずれも鼻や喉の炎症(即ち風邪)やアレルギー性鼻炎が原因として多く、決して耳に汚い水が入ったりして起こるわけではなく耳管(咽と中耳腔をつなぐ寒で中耳の換気と排液の役目)を経由して中耳(鼓膜の奥)に炎症が拡がるわけです。幼小児の耳管は成人に比べ水平で短く、開閉の筋肉が未発達なのが原因と言われています。急性では膿性の液が、滲出性ではサラサラのものから水飴状のネバネバした液まで様々な液がたまります。

急性中耳炎では乳幼児でも耳を押さえて不機嫌になったり夜泣きをしたりで気付かれますが、滲出性中耳炎では小さなお子さんの場合訴えることが困難ですので周りの大人がなかなか返事をしない・なんとなく落ち着きが無いなどのサインを見逃さないことです。

中耳炎の治療について

1.急性中耳炎

「小児急性中耳炎診療ガイドライン」に基づき鼓膜の状態(赤み・腫れ具合など)や発熱の有無などで重症度を判断し、重症であれば鼓膜切開・排膿を行います。極力痛くないように鼓膜麻酔液というもので表面麻酔をします。軽症であれば抗菌剤や消炎剤などの内服で経過を見ますが、多くは治る過程で滲出性中耳炎になりますので数週間かかります。またほとんどの場合副鼻腔炎の合併があり、こちらの治療も必要になります。


2.滲出性中耳炎

まず鼻(副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎)や喉の治療をします。場合により抗菌剤・消炎酵素剤・粘液溶解剤・抗ヒスタミン剤などを根気よく続けて下さい。それ以外に耳管通気と言って鼻の奥からゴム球またはカテーテル管を用いて直接中耳腔に空気を送ります。これにより中耳の換気と貯留液の排泄が促されます。オトベントRと言うものを用い鼻で風船を膨らませる自己通気法もありますのでご相談ください。これらの治療でなかなか貯留液が抜けない場合は麻酔をして鼓膜切開・排液したり、切開した穴は3から7日くらいで閉鎖しますので鼓膜換気チューブを挿入する場合もあります。一般的に用いられるものは早ければ2,3ヶ月長くても1年くらいで自然に抜けてしまいます。
小さいお子さんで耳の穴が小さくチューブを入れるのが難しい場合は、総合病院に依頼して全身麻酔での挿入をお願いすることもあります。(病院についてはご相談ください)

滲出性中耳炎自体の難聴は一般的に軽度なものですが、あまり放置するとコレステリン肉芽腫、癒着性中耳炎、真珠腫性中耳炎などに病態が変化して手術治療を要することがあります。

副鼻腔炎について

鼻や上あごや額の骨の奥は副鼻腔と呼ばれる空洞(上顎洞・篩骨洞・前頭洞・蝶形骨洞の4つ)があり、鼻と通路でつながっています。風邪の時にこの中に細菌が入り込み、化膿した状態が副鼻腔炎(いわゆる蓄膿症)の状態です。ただし必ずしもまっ黄色い鼻汁とは限らず、また前に垂れるより喉に向かって下がって行きます(後鼻漏)。症状は鼻汁・鼻つまり・鼻声・頑固な咳・頭痛・吐き気などです。

当院ではCR(コンピューテッドラジオグラフィー)による迅速・鮮明な画像が得られ大体の重症度と治癒までの期間がわかります。

治療は、鼻の粘膜の腫れを引かせてから鼻の吸引後にネブライザー(抗菌剤と炎症をとる薬)を行います。幼小児の副鼻腔炎で手術が必要になるケースはめったにありませんので根気よく薬物治療(消炎酵素剤・粘液溶解剤・抗菌剤など)を続けて下さい。マクロライド系抗生剤(エリスロマイシン、クラリスなど)の少量長期投与という方法(小児では1~2ヶ月)も有効性の確立されたスタンダードな治療法として定着しています。

最後に水泳教室などに通っているお子さんでプールの塩素による鼻炎から副鼻腔炎となってしまったお子さんが多く見られますが、風邪からの副鼻腔炎と異なり余り膿性の鼻汁も無いことが多く治療にもかなりの時間を要することもあり注意が必要と思います。

お子さんからご高齢の方まで

気になる症状がある場合にはお気軽にご相談ください